「食」に関わる活動を、食材の生産や調理あるいは生命・健康維持などを目的とする物理的・生理的観点からだけではなく、文化的で社会的な活動として捉えることの重要性がますます強く指摘されるようになってきています。
「食」という人間の行為と営みは様々な文化的・社会的な意味を持ち、それらは具体的な社会形態やシステムを形作りながら、道徳や宗教・倫理観に対しても様々な象徴的な意味を与えられ人々の思想や行動に大きな影響を与えているからです。
実際、人々の日々の食活動を通じて基本的な生活様式や家族関係が築かれ、社会的な礼儀作法・マナーが形成され、食器やしつらえなどの美的感覚にも反映されています。さらに食という行為と活動は、地理的・政治的・経済的諸条件のもとでの文化的要素と社会的・環境的要素の複雑な相互依存関係によって長い歴史の中で形成され、その食文化が地域文化や価値観・宗教観を規定していくという相互作用の中で理解されなければならないのです。
このような「食」の持つ広がりを解明し理解するためには、従来の学問領域を越える幅広い観点からの研究が必要とされます.またそのような研究はそれぞれの国家や民族の個別の文化に対する理解を深めるだけではなく、異文化理解や相互理解の重要な契機になりうるでしょう。
さらに食のビジネスにおいても、従来の農・漁などの物的な生産拠点形成を中心とした観点から、フー ド・コンテンツ、フード・ジャーナリズムなどに至る人の生き方や哲学、こだわりなどを商品化し、その情報や文化の観点からのアプローチの重要性が指摘されるようになってきています。
また現代の国際社会においても、「食」は国民国家・国民経済の極めて重要な戦略要因にもなりつつあります。食の確保は国民国家維持の必須の課題であるばかりではなく、たとえばクール・ジャパンや和食の国際文化遺産申請に見られるように、文化的なプレゼンスの向上や経済戦略としても重要な意味を持ち、ナショナリズムとも関わりながら政治的な意味ももちつつあります。
本研究センターでは、以上のような「食」を巡る諸課題に対して、国内外の研究機関・団体・企業と協力し、グローバルというキーワードを強く意識しながら人文・社会科学・行動科学的の観点から研究を行い、その成果を積極的に国際社会に還元していくことを目的に2018年に設立されました。文理総合キャンパスとして20年間の研究実績をもつ立命館大学びわこくさつキャンパスの研究蓄積を活かし新たな研究分野の創造と高度化へ向けて活動をすすめていきます。
よろしくご支援、ご協力をお願いいたします。
食総合研究センター事務局長 井澤裕司